気ままにランダムハート

アクセスカウンタ

help リーダーに追加 RSS コンフリクト(葛藤)

<<   作成日時 : 2006/04/22 02:04   >>

トラックバック 2 / コメント 0

第二章では、『社会に対する疑問』てなことを述べながらも、基本的テーマとなる『忘却』よりも、全体的に、他者に左右される個人や集団が中心的な要素となって、様々な図書機関から掻き集めた数十冊の参考文献からの記事を、それこそ、片っ端から継ぎ足したような論を展開させた。

ようやく第二章を書き終えて、いよいよ結論部となる第三章に入ろうとしても、何も書けない日々が何週間も続き、あれよあれよという間に、いよいよ提出日の数日前となってしまった。

こうなれば最後の手段とばかりに、急遽、会社へ4日間の休暇届を出して、提出前の三日間で何とか仕上げてやろうという、いつもながらのいい加減で計画性の無い行動に出ていた。

PCのワード画面に向かい、いくら何かを書こうと思っても、何も書けない自分が情けなかったが、ふと、ある事に気付いて、ハッとした。

テーマ部、序論部、第一章、第二章と、今までの時間の中で書き上げてきたが、その全てが誰かの考えを引用して、それを自分勝手に解釈してアレンジしただけの、それこそ紛い物の文章でしかないことに。

しかし、いまさら書き直すわけにもいかず、残りを何とか仕上げてみることに全力を尽くすことにした。

自分の身の回りで起こった、どんな些細な出来事でも構わないからと、乏しい記憶を何度も何度も振り返りながら、そのわずかな記憶の糸口を切っ掛けとして文章を展開させ、三昼夜のあいだ一睡もせずに、どうにかこうにかで文面を仕上げ、いちおうの体裁を整えたのち、大学本部までの道を急ぎ、湾岸道路を一直線にと烈しく車を飛ばして、締め切り時間の三分前に担当窓口に提出した。

後から読み返すと、本当に支離滅裂で、実に恥ずかしくなるような文面だが、強烈な睡魔や激しい疲労と闘い、それこそ意識朦朧となりながらも、我ながら、よくぞ期日までに規定の文字数を書き上げたなと、その部分に関してだけは、自分で自分に敬服した。

情けない話だが、私が過去に、三昼夜一睡もしないで何かをしたなどという経験は、後にも先にも、新宿歌舞伎町のフリー雀荘で、仕事をサボって打ち続けた東風戦麻雀ぐらいしか記憶にない。

今更ながら、現金払いの中で、よくぞ財布が持ったもんだ。これはこれで、まったく違った意味において、自分で自分に感心している。それこそ、家内にばれたら、殺されてしまうかも知れないが。





画像

                     



                  《第 三 章》

                 【結論に代えて】



 NHK第一放送の深夜番組である『ラジオ深夜便』の中の

ワールド・ネットワークというコーナーで最近、次のような実話

を伝えていた。

 第二次世界大戦中に、米軍機を40機以上も撃墜した日本

人の戦闘機乗りが最近アメリカで亡くなり、現地の人々がそ

れを心から哀悼しているそうだ。この戦争でアメリカの撃墜王

が撃ち落した戦闘機の数が、ちょうど40機だそうだから、世

界の撃墜王といっても決して過言とは言えないだろう。 

(以下の記述には、私の想像もいくらか加えてある)

 名前をサカイと言うこの人は、終戦後、間もなく渡米して、全

米を又に掛ける航空ショーのパイロットになった。持ち前の腕

の良さで大変な人気者になり、現地のパイロット仲間にも随

分と持てはやされていた。

 ある時、スティーブンスという名のアメリカ人と仕事で組ん

だ。彼も相当に腕の良いパイロットで、二人は息が合い、仕

事の後で一緒に食事をして色々な話をした。そのうちに、話

題が戦時中のことになった。

 スティーブンスは、自分の父親もパイロットで、とても尊敬し

ていると言った。しかし残念なことに戦闘中に撃ち落されて

帰らぬ人となり、母親と一緒に、一晩中なげき悲しんだとい

う。その日からは本当に口にするのも辛く苦しい日々を送っ

て来たそうだ。

 スティーブンスの父親が亡くなった時の話をしばらく静かに

傾聴していたサカイは、ようやく気が付いた。彼の父親が操縦

する戦闘機を撃墜したのは他の誰でもなく、それは、紛れもな

い自分自身なのだという残酷な現実を理解したのだ。言葉を

失ったサカイは、ただ呆然とスティーブンスを見つめていた。

 しばらくの沈黙が続いた後で、スティーブンスはサカイに、一

度、家の方に来てくれないかと頼んだ。サカイはそれを聞い

て、少し考えた後に、分かったという表情で、無言のまま深く

頷いた。

 そして、その日が来た。招待されているとはいっても、自分

はその家の、主人の父親を殺した人間なのだ。例えどんなに

罵倒をされたとしても、それは当然の事と甘んじて受ける気

持ちでいた。

 ドアをノックする手はジットリと汗ばんでいる。家の中から女

性の声が聞こえる。心臓の鼓動は耳元で半鐘の様に鳴響く。

ドアが開かれて訝しむような目つきの女性が睨む。

 やはり来るべきではなかったと少し後悔したサカイを、女性

は家の奥へと案内する。

 そこで待ち受けていたスティーブンスは、満面の笑みを称え

てサカイを出迎え、家族みんなに向かって紹介した。  
      
 誰もサカイに敵意を持たなかった。誰もサカイを恨まなかっ

た。誰もがサカイを歓迎してくれたのだ。

「何という人たちだ!」

 サカイは感激して目を潤ませたまま、そこに立ちすくんでい

るだけだった。

 その日から、サカイとこの家族の交流が始まった。将来は

空軍のパイロットを目指しているというスティーブンスの娘の

誕生日には、サカイが長い間、大切にしていた絹のマフラー

をプレゼントした。サカイ自身にも自慢の娘がいて、大学を卒

業したらすぐに米軍の将校と結婚をした。

 何年かたった後、スティーブンスの娘は夢をかなえ、女性と

いうハンディを乗り越えて見事に空軍のパイロットになった。

そして、軍用機に搭乗する際には必ず、サカイが彼女の誕生

日にプレゼントしたマフラーを身に付けているそうだ。サカイ

が、彼女の祖父の戦闘機を撃墜した時にも首に巻いていた

であろう絹のマフラーを。

 人は何故に忘却するのだろうか。この問いかけに対する一

つの答えがこの話の中にあるような気がする。このエピソード

を素直に理解できない人は、フロイトの防衛機制を引っ張り

出してきて、この家族は「反動形成」を働かせて敵意の感情を

抑圧することで、本質的な意識とは正反対の行動、つまり、

快くサカイを出迎えて受け入れたのだとか、或いは又、苦痛

に満ちている観念や出来事を「隔離」して、父親や、祖父を戦

争で殺した男のサカイではなく、尊敬するパイロット仲間で友

人のサカイだけを認知することで、友情を育んだのだとか言う

のかも知れない。そして、それこそが、もしかしたら真実なの

かも知れないが、それだけで人間の心理、或いは精神を解

釈するのは、私には、とても寂しい気がする。

 そうは言っても、どんなに強がって見たところで、所詮、人間

は弱い生き物である。

 認めたくない現実に、一生の間には数え切れないぐらいに

直面して、それに対処していかなければならない。それらの中

には、その人には耐えうることの出来ない、厳しく、辛く、悲し

い現実もあるだろう。そんな時でも、唯一、今にも壊れそうな

自分の心を守ってくれるのがフロイトのいう防衛機制であり、

ジャネが説く解離なのだろうか。

 リンダ・マイヤー・ウィリアムズの調査によると、アメリカの国

内で、十二歳未満で性的虐待を受けて、救急病院で治療した

経験のある女性、100人の内の、38人が、その出来事をま

ったく覚えていなかったそうだ。病院に記録が残っているの

に、そこに運ばれたことすら記憶していなかった。

 また、南カルフォルニア大学の心理学博士ジョン・ブライア

の調査では、子供のときに性的虐待を経験したという440人

の女性と30人の男性に質問したところ、このうちの、ほぼ三

分の二が、虐待をまったく覚えていない時期があったそうだ。

虐待と抑圧には密接な関係があり、この場合も「抑圧」、或い

は極端な「否認」という形の防衛機制が働いていたのだろう

か。

 社会的弱者である子供達は、大人が守らなければ自分で

自分の身体を守るすべを持っていない。だから、せめて心だ

けは自分自身で守ろうと虚しい抵抗をするのかも知れない。

 ベイ・エリアの社会学者ダイアナ・ラッセルはサンフランシス

コに住む930人の女性を調査して、その内の六人に一人

が、子供の時に家族の誰かと、望まない近親姦を経験し、

三人に一人が、親族以外の人間との、無理じいによる性行

為を経験していたと述べている。

 この子供達の何人かは、この辛い現実を意識の底に追い

やり、無意識の領域へ埋没させて、自我が崩壊しないように

と防衛機制を働かせたのだろう。自我の統合を保ち、心の安

定感を得るために。

 そして、別の何人かの子供は反対に、自我を崩壊させるこ

とによって、これは現実ではないんだ、こんなことは嘘なん

だ、本当の自分は全然違う所にいるんだと、ある種の催眠を

自らに施すことで病的な解離状態へと自分を誘ったのだろ

う。大人になって心身が強靭さを持つその日まで。

 では、大人になった、その時こそ彼らは本当に強くなれるの

か。どんな困難や逆境にもめげない自分が、そこに形成され

るのか。あるがままを受け入れて、あらゆることに対し自己一

致をさせ、己が内にある心の声に耳を傾け、前向きな自己暗

示を常に絶やさずに、今ここに生きている自分を確信する。

 しかし残念ながら、心に外傷を受けることで一度でも解離状

態に誘われた者は、たとえ何年たっても外傷を引きずり、何

度でも解離性障害を引き起こすと多くの専門医は指摘して

いる。

 本当にそうなのか。確かに一度でも解離性障害になった人

は、健忘、遁走、離人症、同一性障害と、次から次へと、様々

な症状を併発させ易くはなっているかも知れない。だが、解離

は元々、度重なる外傷体験に耐え切れなくなった子供、或い

は大人が、自己催眠を繰り返すことによって深い催眠状態に

入るようになり、トランス状態を迎えて、単一性、同一性、能

動性、限界性を崩して行くようになるのだから、逆に考えれば

良いのではなかろうか。つまり、催眠療法を応用することが解

決への糸口となるのである。

 催眠療法は「誘導された解離」と言われるくらい、重度の解

離と同じような症状が出てくる。

 忘却(名前も年令も忘れる)、年令退行(幼児、或いは前世

まで?)、人格転換(他人、動物、物体)、後催眠健忘(誘導中

の記憶が想起できない)、他にも共通するものは幾らでもあ

る。

離人症に似ている、深いトランスに入っている時の隠れた観

察者という感覚、等など。
 
 では、催眠療法と解離はどこが違うのか。それは、細かい

部分を除いたら一つしか見当たらない。覚醒暗示である。

 解離性障害にいたる過程で、無意識に自己催眠の訓練を

積んできているのだから、自律訓練法の中の覚醒暗示をマス

ターするのは、そんなに難しい事ではないと思う。彼らは、鬱

病患者とは違い、陰鬱な気分で楽しい経験を想起できなくな

っている訳ではない。反対に、多幸感や全能感のように、空

虚で薄っぺらではあるが、ある種の爽快感は感じることがで

きるのだから、それを覚醒暗示の方に振り向けることで目覚

めへの意識を高め、現実を認識できるように成るのではない

か。そしてこれを応用することで、洗脳やマインドコントロール

といった、強力で威圧的な長期にわたる教化に対しても、脱

洗脳になり得るのではないだろうか。

 抑圧された記憶を想起させるための条件には、強い知覚的

な刺激である、きっかけが必要といわれている。その時と同

じような状況、あるいは、それは夢であったり感覚であったり

する。つまりはきっかけが有れば、いつかは、ありありとした

記憶を想起させることができるのだ。  
                        
 解離の場合は果たしてどうなのだろうか。抑圧が記憶を埋

没させることだとすると、解離は記憶がどこかへと逃走して

しまうことだ。知識・感情・記憶を統合する能力を失い、心的

外傷の記憶が、通常の意識とは違う場所に行ってしまい、ほ

んのわずかな記憶の断片を残すのみで、後はすべてが失わ

れてしまう。けっきょく解離は、現実を認知する機能と、記銘・

保持・想起という記憶の三要素の内、記銘と保持の一部が

停止状態になったものなのだろう。

 傷だらけにされた娘を見ても、抱きしめることもせずに、そ

の娘に怪我を負わせた張本人と「ちゃんと話をして、研鑚し

たらいい」と娘を諭すヤマギシ会の父親。この人は現実に目

の前で起こっている事実を、認知する能力がほとんど働いて

いないのだ。或いは、既に重度の解離性健忘となり眼前に

存在するものが完全に見えなくなっているのかも知れない。

 セレンゲティ平原の雌ライオンにいたっては、目の前にい

る雄ライオンが僅か数日前に、己が愛し子たちを全員噛み

殺したという事実に対しての記銘はしたが、それは抑圧し

て、保持の段階で解離することにより、この雄ライオンの三

昼夜にも及ぶ交尾行動を受け容れたのだろうか。

 それならば、スティーブンスの娘が取った行動は、どう理解

できるのだろうか。幼い頃から父親に聞かされていた、おじ

いちゃんの自慢話。そのおじいちゃんを撃ち殺したジャップの

戦闘機。嘆き悲しむおばあちゃんのこと。他にも色々と聞か

された筈だ。何故ならば、彼女がパイロットに成りたかったの

は、おじいちゃんの仇が討ちたい、憎いジャップの戦闘機を

撃ち落してやりたいという気持ちを、無意識の領域に持った

からだ。そうでなければ、いくら父親がパイロットだからとい

え、女だてらに厳しい米軍のパイロットコースを選ぶとは到底

に考えられない。

 彼女はその時、いったい何歳だったのだろう。父親から

散々に聞かされてきた憎悪すべき男が、おじいちゃんの仇

が、ジャップが、サカイが、家を訪ねてきたのは。

 その男を心の底から憎んでいた筈の父親が、これ以上は

無いような笑顔で歓迎して自分たちに紹介したのだ。彼女

の心の内側では相当な戸惑いや葛藤が生じたのでは、な

いだろうか。

 誕生日に貰った白いシルクのスカーフ。戦争映画でゼロ戦

を操縦する日本兵が首に巻いているスカーフ。おじいちゃん

を撃ち殺した時にも、間違いなく首に巻いていた筈のスカー

フ。

 今、そのスカーフは、彼女にとって決して手放すことが出来

ない、何物にも代えがたい大切な物へと変わった。

 軍用機に搭乗する彼女を、その素肌の上から優しく包んで

守る、お守り以上のお守りとして。

 私は、彼女に関してはなにも考察することができない。どう

にか分析して見ようと思えば思うほど、何故か、涙が両目か

ら溢れ出て止まらなくなるからである。

 結局、忘却とは何なのだろうか、想起できるものが忘却であ

ると仮定するならば、やはり解離は、忘却とは言えないのか。

しいて言うならば記憶の拒絶とでも呼ぶべきものなのか。

 だからといって、抑圧は忘却なのかという疑問にも答えを出

すことが出来ない。何故ならば、抑圧は無意識が事柄を記憶

して、それを奥ふかくに仕舞い込んでいる状態だからだ。

 色々と考えあぐねても何も答えが見つからない。

 ただひとつ私が感じたことは、たとえばそれが、どのように

理不尽なことであっても、それを受け入れることで、種を未来

永劫にかけて存続させようとするなにかの意図が、ここに働

いているとしか言いようがない不可思議さだけである。



                 了
                                                                                                                                      
                   

 







〔文庫〕生命の暗号
〔文庫〕生命の暗号 (サンマーク文庫)

設定テーマ

関連テーマ 一覧

月別リンク

トラックバック(2件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
防衛機制
防衛機制防衛機制 (ぼうえいきせい) とは心理学・精神分析学などで用いられる用語であり、欲求不満などによって適応が出来ない状態に陥った時に、不安が動機となって行われる再適応のメカニズムを指す。もともとはジークムント・フロイトの娘、アンナ・フロイトが幼児心理学の研究の中で言い出したものが、元になってい... ...続きを見る
心理学を考えよう
2006/08/18 13:58
自己催眠
自己催眠について学びましょう。自己催眠とは自分自身で潜在意識にアクセスする方法です。この自己催眠を習得し実行すると、さまざまな効果を体感することができます。自己催眠を理解しましょう。 ...続きを見る
江原啓之の人生相談を考える
2007/01/07 23:09

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
あわせて読みたい